朝起きて、ひどい二日酔いと共に、麻子は昨日の記憶を辿った。
が、途中からはおぼろげだった。
一糸纏わぬ姿の自分。
榊に抱き付いたのは確かだと思うが、でもその後どうなった?
まさか、エッチしちゃったなんてことはないとは思うけど。
『好き』
と、言ったのは、夢の中の話よね?
っていうか、そうじゃないと困るんですけど。
あわあわしながらも、出社時刻が押し迫り、麻子は急いで準備をして家を出た。
が、鍵が見つからない。
どうしていつもいつも鞄の中で行方不明になるんだと、もはや泣きそうになっていたところで、ガチャリと隣のドアが開いた。
「さか、榊くんっ」
焦って噛んでしまった麻子。
榊は欠伸混じりに「おー」と言うだけで、麻子を見ることもしない。
挙句、さっさと鍵を閉めて行こうとするので、
「あの」
意を決し、麻子は榊を呼び止めた。
「き、昨日のことだけど」
榊が振り向く。
麻子は縮み上がりそうだった。
「わ、私、すごく酔っ払ってたわよね?」
「だな」
「えっと。私、途中から記憶がなくて。だから、その……」
私たちの間には何もなかったわよね?
なんて、聞けるはずもない。


