世界で唯一「皇帝」を戴く国、日の本。彼大戦に敗北し、荒廃した国土から奇跡の復興を成し遂げたこの国ではあるが、占領政策により国民の道徳観は根こそぎ奪われ自由貿易、市場経済の荒波に打ち勝つべく徹底したコスト管理を物だけではなく人にまで押し付ける事を国家再生の途と決め、その如く歩んだ国民にとって、物事の道理は目に見える物としか感じ得なくなったとしても仕方がない事なのかもしれない。
戦争に負けながらもその後、経済で勝ちを収めたこの国にとって、何故世界で唯一系譜を遡れば神話にまで辿り着く皇帝を戴くのか、白色人種が世界のルールメイキングをする世の中で法皇と同等の地位にいる黄色人種たる皇帝が、白人以外の人種にとってどれ程の精神的支柱になっているか理解しないまま、象徴としてその存在を確定せざるを得なかった占領軍の政策に日の本の国民は、なんら抵抗も見直しもしないまま今日に至っていた。
あの時、皇帝を戦犯として葬る事が出来なかった占領軍は、表向きは当時の国民の心の拠り所として絶対的な存在である皇帝を占領政策に優位にするためと公文書等で記しているが、本音は別のところにあった。
しかし、その本音が表に出る事も、ましてや語られる事などは微塵たりともあり得ない。
人々は所詮目先の事柄に忙殺され、その時々の社会の空気により国論を語る操り人形でしかなかったから……