聞こえるのは雨音と







「真咲さん、良かったら使って下さい」






折りたたみの傘を手渡され、はっとする。

今まさに雨がふっているのに、七尾は私に自分の傘を手渡し、自分は濡れて帰る気満々のようで慌てて呼び止めた。


以外に大きな声が出て自分でもびっくりしたが、七尾はそれ以上に驚いた顔をしていた。






「真咲さん?」

「ぬ、濡れるからその、途中まで一緒に入ってけばいいよ」

「でも」

「嫌じゃなかったらだけど」

「嫌じゃないです!」







ああ、今日の私はどうかしている。告白してきた相手にそんなことをいうなんて。

黙って借りとけばいいのに。






そうだ。
自分はどうかしているのだ。


振られて頭がうまく働かないから、こんなことを言っているのだと言い聞かせ納得させようとしている。





玄関を出て聞こえたのは、さっきより激しくなった雨音。


それから、





「真咲さんはどのあたりに住んでるんですか」





というありきたりなものだけれど、楽しげな明るい声だけだった。






そういえば昔……。


彼と付き合い始めた当時、私は七尾君と同じような顔をしていたよ、と思い出す。








【聞こえるのは雨音と】 了


12/07/30