提出を快諾した名波の携帯電話からは、なにも出なかった。
出たのは、畑野優馬の携帯電話からだ。

六時四十二分、平河名波への発信履歴。
本屋の監視カメラにも、名波が携帯電話を鞄から出して耳に当てる姿が写っていた。

名波は、呼び出された方だったのだ。
そしてその後四十分ほど、彼女は監視カメラから姿を消している。


電話には出たが学校へは行っていない、この五分ほどの電話で別れ話が済んでしまったので、また本屋をうろうろしていた。
着信履歴がなかったのは、電話を切ったらすぐに消すのが癖になっていたから。

名波は慌てもせずにそう言ったが、それを証明するすべはなかった。



そして事件は、ある日を境に一気に急転を見せる。

凶器と思われる、刃渡り六センチの小さなナイフが発見されたのは、事件から二週間、鈴木たちの証言を受けて担当刑事が名波に事情聴取をした、直後のことだった。