平河名波は、犯行を認めなかった。
交際が罰ゲームだったことは事件が報道されるまではっきりと知らなかったが、最初から薄々わかっていた。
畑野がどうしてもと言うので承諾したが、そもそもお互いに気持ちがないことは知っていたので、弄ばれたと知ったくらいではどうとも思わない。
畑野が松前佳奈子と付き合っていることは、事件が起きて始めて知った。
殺してやるなんて言ったことも思ったこともないし、塚本とは三年間一度も口を聞いていない。
畑野優馬とだって喧嘩をするほど親しくもないし、松前を馬鹿にしたことも、用事以外で顔を合わせたこともない。
何より、そんなことをする理由がない。
もちろんナイフを持ち歩いているはずもない。
彼女は傍目には大した動揺も見せず、そう言った。
事件のあった日に帰りが遅かったのは、学校の近くにある本屋に二時間ほどいたかららしい。
久しぶりに参考書ではない、写真集や文庫本をじっくりと見ていたが、結局なにも買わなかったので、記録には残っていない。
この辺りでは一番大きな書店なのでいつも客が多く、店員も客の顔をいちいち覚えてなんていないと言う。
店の監視カメラには、名波の姿は写っていた。
だがそれも数十分に一度という途切れ途切れのことで、六時から七時半の間に一度店を出て、学校へ行って畑野を刺してから戻ってくることも、可能だということになった。
もしそれが本当ならば明らかなアリバイ工作で、つまりそれは、殺意の存在を裏付けることになる。


