畑野の強い押しで、名波との交際は成立した。
もちろん、名波本人には何も知らされていない。
畑野も、彼女のことはただのクラスメイト、どちらかというと絡みづらい暗い人、程度にしか思っていなかった
恋人らしいことも一切せず、せめて二週間くらいは付き合って、すぐに別れを切り出せばいい。
そんな程度に考えていた時、状況は急変した。
畑野に、他に恋人ができたのだ。
それが、松前佳奈子だった。
元々仲の良い友人同士だったが、ある時とりとめのないやり取りの最中に、付き合ってみるか、という話になったらしい。
畑野も松前も社交的なほうで、クラスでは目立つ立ち位置にいた。
二人が付き合い出したという話は、水面下で、瞬く間に広がる。
それが名波の耳に入ったのだと、鈴木たちは主張した。
内気な名波は、畑野が松前とも付き合っていること、自分への告白はゲームの一環であったことを知って、憤慨した。
それだけならまだ修羅場になる程度で済んだのだろうが、名波は、直情的で激しい人格を、内に秘めていたらしい。
『殺してやる』。
そう呟いたのを、川尻が聞いていた。
告白は罰ゲームだったということを名波に話してしまったと言ったのは、塚本だ。
彼と鈴木と山田は、そのことで名波が畑野と喧嘩しているのを見たとも言っている。
松前佳奈子もそれを目撃しており、自分が畑野と一緒にいる時で、自分のことも馬鹿にされたのだから間違いないと話していた。
また、名波はいつも護身用にナイフを持ち歩いている、という証言もあった。
丸井だけはなにも証言しなかったが、名波は畑野を殺したいほど憎んでいると思う、という意見には賛同したらしい。


