泣き顔の白猫


歩道へ到達して、そのまま数メートル歩道を転がり落ちたのだろうか。
人が転がるほど急とは思えないが一応坂道ではあるし、あり得ないこととも言い切れない。

だがその可能性を、安本は否定した。

「歩道に落ちてから、一度上がってるんだよ」
「え? 上がって?」

加原は思わず、電話口で身を乗り出した。
訝しげな声が出る。

「最初、駐車場から落ちた。S字歩道の真ん中辺りだ。突き落とされたのか、事故だったのかはわからねぇ」

安本が、場所の説明をする。
どこからこのぐらいの距離で手摺に靴のゴムが擦り付けられた跡が残っていて、云々。

彼の説明はかなり詳しくて、加原の脳裏にはその情景がまざまざと浮かんできた。

遺体の履いていた靴は靴底の側面部分に不自然に擦れた跡がついていて、手摺の痕跡とも一致している。
少なくとも自力で柵を乗り越えたのではない、という結論が出ていた。

「それで、下の歩道まで転がり落ちた。たぶんその時はたいした怪我でもなかったんだろうな。立ち上がって、自分で歩道を歩いたんだ」
「え、ずれてるっていうのは、」
「被害者が下まで落ちたのは、歩道のカーブの部分、海側からだった」
「それは……まさか、」
「あぁ」