「加原さん、私のこと疑ってましたよね」

名波の言葉に、加原はぎくりと動きを止めた。
にっこりと、笑顔を作る。

「なんのこと?」
「その笑顔、自白とみなしますよ」
「……手厳しいな……」
「ふぅん……」

じとりと見上げてくる視線。

「そんなこと、言えるんですか。へぇ……」
「そりゃ、だってね……いや、……ごめん」

言い訳をやめて素直に謝ると、名波は前を向いた。

赤い煉瓦作りの建物が見える。
館町地方裁判所だ。
今ごろあの中で、安本の初公判が行われているはずだった。


地方都市で起きた連続殺人、というだけでも世間の注目を浴びるには十分だというのに、犯人は警察官、しかも動機は五年前にとある高校で起きた殺人事件の復讐。
その上、その五年前の事件で捕まった少女は冤罪で、真犯人はすでに自殺している。

何かと警察を叩きたがるマスコミが飛び付くには、うってつけの事件だった。

現に、安本が捕まった直後は、名波のことが連日報道されていた。
事件当時未成年だったためか実名は出ていないが、それにしても色々と迷惑を被っている。

今は少し落ち着いているが、特に館商高校にはマスコミが詰めかけ、一時は物凄い騒ぎだったのだ。