一瞬、辺りが静かになったと思ったら、かちゃりという音が聞こえた。

目を見開いて見ていたはずの名波でさえ、何がどうなったのか全くわからない。
唇が震える。


加原が膝を突いている。
灰色のアスファルトが、血に濡れて光っていた。

「……っかはらさ、!」

がくがくと震える脚を引き摺って、駆け寄ろうとする。
駆け寄りたいのに、立ち上がれない。

かち、という、重そうな金属音。


「加原……お前、」

安本が、苦い顔で呻いた。
右腕の切り傷が開いて、血を流している。

ナイフが地面に落ちて、軽い音を立てた。


加原の手にも、血が付いている。
安本が自分の首にナイフを突き立てようとした瞬間、彼は咄嗟に、安本が自分でつけた右腕の傷を指先で抉ったのだ。

浅いとはいえ傷は傷だ。
痛みに怯んだ隙を見逃さずに、安本の腕を捻っていた。

安本の手首には、黒い手錠がかけられている。

「お前のそういうとこ、やっぱ、刑事に向いてるわ……」
「……安本幹雄。殺人容疑で逮捕」

加原は荒くなった息を吐き出すように言って、腕時計を確認してから、どさりと地面に座り込んだ。

それから、騒ぎを聞き付けた近所の住民やマスター、加原の同僚たちが駆け付けてくるまで、ただそこに三人で、佇んでいた。