名波は、振り返ろうとした。
加原が、その肩に手をかける。

振り向きざま、安本に体ごと当たっていく背中が見えた。
思わず手を伸ばすが、加原が飛びかかりながら押し戻したせいで、体は二人から離れて、倒れていく。

景色が、スローモーションで流れている気がした。


ナイフを握った安本の手。
加原が、それに腕を伸ばす。

そんなことしたら、切られてしまう。
意識だけは普通の速度で、そんなことを思った。


地面に転がりながらも、名波の目は二人を追っていた。
転んだ感覚なんてなくて、急いで手をついて体を起こしたいのに、緊張でままならないのがもどかしい。

加原は、安本の抵抗をなんとか躱しながら、彼の右腕を見ていた。

ナイフが光る。
そして、次の瞬間。


「あ゙あ゙ぁあっ!」

呻きのような叫びが聞こえた。

「加原さん……っ!!」

金切り声。
名波が、やっとのことで身を乗り出す。