――『私、加原さんにはどんな嘘も吐きたくないです』

名波の言葉が、名波の声で、名波の口調で、頭の中をループする。

加原は、名波の言葉を疑ってはいなかった。
たいした動機もなしに人を殺すような人間じゃない。
だからこそ、彼女には動機があると思ったのだ。

――『恨みました』
――『憎んでました』
――『死んでしまえって思ったことも』

塚本晃一、山田慎二、川尻健太、鈴木学、松前佳奈子。
五人の被害者全員に対して殺害する強い動機があったのは、きっと彼女くらいだ。

自分を殺人犯に仕立てあげた、元同級生たち。
彼らのせいで名波は、十七歳からの五年間を丸ごと奪われた。

しかも、その間に、名波を信じて待っていた母親が亡くなったのだ。
名波は、たった一人の肉親の最期を看取ることもできなかった。

犯行時刻の午前一時はちょうど、名波が『喫茶りんご』での仕事を終え、帰路に着いている頃だ。
十二時に閉店してからどの現場へ向かっても、一時間もあれば余裕の到着だろう。

それに、殺害方法は、転落やナイフによるもの。
勢いを乗せれば、軽くて力の弱い女性でも、できないことはない。
むしろ小柄で非力そうな方が、油断を誘える。

状況はすべてが、名波に犯人の可能性があることを示していた。
まさか名波が、と加原が一瞬でも思ってしまったとして、それは仕方のないことだろう。

なにしろ昨日の今日で、驚くべきニュースが飛び込んできたのだ。
それは、安本が何者かに襲われて怪我をした、という知らせだった。