波が引くように、名波が離れていく。

加原は考えるより先に動いていた。
小さな手を捕まえて引き寄せて、細い肩を抱き締める。

腕の中の小さな体と囁き声があまりに儚すぎて、手を離したら、どこかへ行ってしまいそうだと思った。


額を合わせる。
背中を丸めて首を傾けて、顔を覗き込むように視線を合わせる。
名波の目が濡れているのか、自分が泣きそうなのか、わからない。

このままずっと触れていたいと思った。
唇を重ねた。

小さな抵抗を抑え込んで、頬を撫でる。
離すのがどうしようもなく惜しくて、最後にもう一度、唇を舐める。

「……さよなら。」

顔を隠すように俯いたままの名波は、掠れた小さな小さな囁き声で、もう一度、言った。
今度こそ逃げるようにして背中を向けた名波を、加原は、追うことができなかった。