加原は五年前の事件の調書にあった、『平河名波は犯行を否認』という一文が、どうも気になっていた。

正直、五年前の名波の逮捕には、冤罪の疑いがあるのではないかとさえ考えていたのだ。

全くの私情がないとは言い切れない。
そうであってほしいという、願望も含まれているかもしれない。

けれど、証拠とされた事柄はどれも決定的とは言えないように感じたし、それに、動機が不十分に思えた。
痴情のもつれなんかで、名波が人を傷付けるようなことをするのだろうか、と。

少なくとも加原の知っている名波は、そんな人間ではない。
無愛想で不器用ながら他人を思いやれる、芯の通った優しい人、だと、加原は思っている。

それが間違っているのだろうか。

包帯を巻いた手を見て何も言わずにフォークを持ってきた彼女が、加原が傷付くかもしれない言葉を濁して言わなかった彼女が。
熱いものが苦手な客のために、どちらがより冷めているか、言葉足らずでも伝えようとした彼女が。

全部嘘で、作り物だったなんて、到底思えないのだ。