「いいか、……余計なことは考えるな」
恐ろしいほどの強い視線。
それを受けてなお、加原は、萎縮したりはしていなかった。
一瞬わずかに外れた視線を、再び安本に向ける。
「……ヤスさん、なにか知ってるんですか」
「何度も言わせんな。来い、聞き込みだ」
加原は、素直に立ち上がる。
安本は手にした調書を、そのまま自分で片付けに行った。
まるで、これ以上加原に、触れさせまいとするように。
さっき机に置いたカフェオレの缶を手元で遊ばせながら、加原はその後ろ姿を見ていた。
見ていた、のだ。
安本が手に取った、調書の表紙を。
そこに書かれた、数行の文字を。
二〇××年二月十一日、男子高校生刺殺事件。
一瞬視界を過っただけの、小さな文字。
――――担当、安本幹雄巡査部長。
そう、確かに記されていた。
加原は、資料室を出て、安本の後を追いながら、缶のプルタブを開けた。
鼓膜に心臓があるみたいに、ざくり、と耳の中で鼓動が聞こえる。
体の中だけが興奮したような異様な状態で、缶を傾けた。
冷たくも温かくもないカフェオレは、味がしなかった。