「なに見てんだ?」
安本は、机に広げられている資料を覗き込んだ。
加原は、なんとなく気まずい思いで、それを見る。
不思議なことに、今回の連続殺人と五年前の事件に関連性があると考えているのはどうやら加原だけのようで、安本も他の捜査員も、全くノーマークなのだ。
不思議というよりは、不自然なことに、といったほうがいいだろうか。
「館商高校……?」
安本の口から、訝しげな呟きが漏れる。
紙の束を手に取り上げた彼の表情は、加原が驚くほど、険しかった。
あ、なんかやべ、と思いながら、安本を伺う。
先輩刑事は、調書を手にしたままで、言った。
「加原」
低い声。
不思議と、冷静な眼差しで、横に立つ安本を扇ぎ見た。
「この事件は、今回とは無関係だ」
「……でも、どう考えても」
「いいから、忘れろ」
「ヤスさん……? なに言ってんですか」
「おい、」
違う、と思った。
今加原が見ているのは、新人の頃から可愛がってくれていた、尊敬できる、頼りになる先輩ではない。
安本は、紛れもなく、刑事の顔をしていた。
取調室で彼と向かい合う犯罪者は、いつもこんな気分なのかと、思い知る。