泣き顔の白猫


加原は、自分が隣の席からわかりやすく顔を背けていることに気付いた。
なにやってんだ、さすがにこれはないだろ、と、自分に溜め息を吐く。
隣のカップルはメニューを開いて、食後のコーヒーを何にするか悩んでいた。

「カフェラテ美味しそー。直輝、なんにする?」
「うん? 同じのでいいよ」
「じゃあ、カフェラテ二つで」
「はい、かしこまりました」

名波が注文を聞いて、もう一度加原の横を通る。
加原はカウンターの方に背を向けているので、今度はすれ違う形になった。

名波と目は合わない。
伏せられた瞼から、目を逸らした。

怒っているのかと思ったが、それもどうも読み取れない。
自分が苛立っているからといって、相手に謝る隙も与えずに視線を避けたりするような子だっただろうか、なんて思ってしまう。

ドタキャンの件とは、別の何かなのだろうか。
あの日、加原を待っている間に、なにかあったのかもしれない。
あの時姿を見た限りでは、危ない目に遭ったようなことはないように感じたのだが。

まさか、と、嫌な考えが頭を過る。


まさか、――罪悪感?
あの夜海へ向かったのは、やはり、本当に――。


気づけば名波のことばかりを考えている自分に、加原は眉をしかめる。
手帳を開いて、無理矢理に事件のことを考えようとした。