いよいよ撮影も大詰めとなり、矢部先輩と部長の撮影が始まろうとしていた。
『部長髪長っ!』
「かつら付けられた。服は制服でいいって」
「部長~そろそろ出番ッスよ」
「おぉ~ありがとう北沢。じゃ、行ってくる~」
笑顔で撮影場所に向かって行った部長。
『よーし、気合いを入れて部長を撮ろうっと!』
―…
夕日の光が差し込む美術室に由良先生は一人、窓際に佇んでいた。
《やっぱりいるわけないよな、幽霊…いや、“かなた”》
今でも鮮明に思い出せる。あの夏の日…。
《はぁ…帰るか》
カタン…
後ろで物音がした。
《日野?いや、絹川か…?》
振り向こうとしたら、不意に風が吹き、向くことを拒まれた。そんな気がした。
《…わかった。向かないよ》
また窓に顔を向ける。
その瞬間、息を飲んだ。
《…っ。“かなた”》
窓に写った彼女の姿。今もあの頃と変わらない制服姿で自分の後ろに立っていた。
《会いに、来てくれたのか?》
顔に髪がかかって、表情がわからない。
《そうじゃないとしても、俺は会いたかった。伝えたい事があったんだ》
由良先生の言葉が止まり、しん…っと静まり返る美術室。
《俺…かなたが好きだ…。かなたに出会った時から、かなたが好きだったよ》
想いは伝えた。
ずっと云いたくて、云えなかった言葉を…。
かなたが顔を上げる。
《かなた…。》
かなたは、笑顔だった。
柔らかい表情で、由良先生を見詰めていた。
そして…
〈―…、……―…。〉
聞こえない声。
彼女は、もう一度ハッキリ口を動かした。
〈ア・リ・ガ・ト・ウ、ダ・イ・ス・キ・ダ・ヨ。〉
また風が吹いた。
もうそこに彼女の姿はない。
振り向き、さっきまで彼女がいた場所を確認する。
……初恋は実らないっていうけど、想いはお互いに伝わった。
もう二度と、一緒にいることが叶わぬ形で……。
―…
「カット!お疲れ様でしたー!!」
琉人くんの声がかかり、とうとう最後の撮影が終わった。
今日、一日の中で一番緊張したシーンだったと、私は思う。
部長のとこへ行こうとしたが、矢部先輩が部長と話していた。


