愛のかたまり

　着いた場所はそう遠くないマンションだった。

　運転手にお金を払うとスカートを翻して車を飛び出した海さんの横顔は、完璧に男の人だった。

　暗証番号を押してオートロックをはずし、おそらく優香子さんと娘と住んでいたのであろう部屋の前まで来て、はじめて海さんはためらった。

　何度も深呼吸をして、やっとインターホンを押す。

　応答はない。

　あたしは思い出していた。

　あの日のことを。

　ちーちゃん･･････

　今度も、あたしにできることは何もないの？

　海さんが震える手でドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。

　頭を抱えてしゃがみこんだ海さんを見て、あたしは自分のやるべきことを見つけた。

　玄関ホールにとってかえし、昼寝タイムの管理人を起こしてうまく理由をつけ、部屋へと急がせる。