愛のかたまり

 海さんは顔を上げると、自虐的な微笑を浮かべた。

「私は逃げたの。それはとてもずるいことだと知っていたけれど、男を愛せるわけでもなかったけれど、ただあの頃は何も考えず心地いい環境に浮かんでいたかった。

 だけどある日ね、優香子が訪ねてきて言ったの。あなたはずるいって。卑怯者って。自分でも本当にそうだと思ったわ。だけど、それでも、帰れなかった。変わってしまった優香子をずっと見続ける勇気がなかった。

 そうしてふたりの罪を確認するための儀式みたいに、去年も先月も今も、私たちは同じことを繰り返しているのよ」

「ずるくない。そんなの、当たり前だもん。本当に悲しい時、人はとても弱くなってしまう。そういう生き物だよ。そんなときに他人を思いやるなんて無理だもん。全然ずるくない」

 役立たずな言葉は空回りする。

 海さんの横顔は今にも消えてしまいそうに透きとおっていた。

 何を言っても届かない気がした。

 神様教えて、この人を救う方法を。