愛のかたまり

 冷えた床にじっと座り込んだまま、そうしてどれくらいの時間が過ぎたのだろう。いつのまにか窓の外は、淋しいくせにどこか嬉しさの混じる秋の夕暮れに染まっていた。

 こんなに美しい赤が、濃くなるにつれ、やがて堕ちてゆくような闇を引き連れてくるなんて信じられない気がした。

 ミュウ、とあたしを呼ぶかすれた声。

 あたしは、海さんが呼ぶあたしの名前が好きだ。彼女はあたしの名をミュウ、と発音する。

 なんでって訊くと、いたずらっこの顔で、「きょんきょんの歌にあるのよ。あたし、あの人の大ファンだったの。ねえ、ミュウって英語のニャーなのよ。私、本当に仔猫を拾ったんだわ」

 そう言ってくすくす笑った。

 きょんきょんも、好き。

 卵粥もピアノのような声をもつ歌手もあまいミルクティも巨大オムライスもバリもやさしい雨の音も、全部全部好き。

 海さんと暮らすようになってから、あたしは好きなものが死ぬほど増えた。