愛のかたまり

「やめて」

　静かに、だけど或る決意をもって響くように言い、正面の女を見据える。

　彼女は心底驚いたという顔をしてだまった。

　ゆっくりと振り返った海さんの表情は、どうしようもなくせつない。

「それ以上、ひどいこと、言ったら、あたしが、許さない」

　女のおどろおどろしい雰囲気にのまれぬよう、一言一言を区切って、確かめながら話す。

「あなたが誰なのか、知らない。ふたりに何があったのかも、知らない。でも、今、あたしは、海さんにこんな顔、させたままでいられない」

　ともすれば震えそうになるちいさな声に、ありったけの気力をこめて言った。

　彼女は目をまんまるにして、しばらくあたしを見つめていた。まるで人間じゃないものを見るみたいな瞳をしていた。

　虚ろな目が暗い色を残しつつもやさしい光をちらと見せる。

　彼女はいかにもおかしそうに笑いだし、いっそ幼いぐらいの笑顔は海さんのそれと少し似ていた。

　海さんは、ミュウ、とひとこと言ったきり、蒼ざめた顔になんともあまい表情を浮かべた。