愛のかたまり

 なにか、闇のようなものに向かってすべてが動いているようだった。

 あたしはこの場から逃げ出したい思いでいっぱいになったけれど、おそろしく黒い腕につかまったようにまるで動くことができない。

 海さんの背中は絶滅寸前の動物みたいに見えた。

 弱々しくて、でもはりつめた一本の緊張感に貫かれて、悲壮な美しさで、強さで、立ち尽くしている。

 その痩せた胸を思いきり叩いて、女は悪口の限りを尽くす。

「でもあてつけにしたってひどいじゃない・・・・・・私が今でもあなたの妻であることには変わりないのよ? こんな・・・・・・おかまの真似事したってなんになるっていうの。どうしたってあの子はかえってこないのに。みっともない、情けない、変態、馬鹿・・・・・・海人なんか大嫌い!」