愛のかたまり

 海さんの、すこし低めの声で穏やかに話すところや、淋しい瞳や長い睫や笑い方や、指先も肩の線も、踵や手首のほくろでさえも、すべてを愛した。

 その感情をすこしも異なものとは感じずにいた。

 海さんもまた、あたしほど強い想いではなかったにせよ、ふたりの暮らしをかけがえのないものと思いはじめていることに気づいていた。

 男とか女とか、大人とか子どもとか関係なく、ふたりの人間は互いを必要とした。

 あたしたちはやっと本当の家族にめぐりあったのだから。

 スポンジが水を吸うように、あたしの心は急速にぬるま湯の幸せを吸収してゆく。

 ひとを好きだということが、こんなにあたたかいなんて知らなかった。

 こんなにも日々を確かなものにするなんて知らなかった。

 ふたりに未来はなくとも、今、身を委ねているこの幸福が現実であることが大切だった。

 当然のように、まえもって起爆剤は用意されていたのに。