愛のかたまり

 今年の初め、突然に彼女は現れた。

 階段を降りてゆくとママと誰か知らない女の人が話しているのが見え、どこか険悪な雰囲気に足音を忍ばせた。

 ママは迷惑そうな表情を隠そうともせず、家では面倒は見れない、お金はあげるからひとりで生活しなさい、というようなことをくどくどと繰り返していた。

 その話を聞いているのかいないのか、彼女はぼんやりとした表情で水槽に額をつけ、魚たちの動きを追っていた。

 そうしてふと顔をあげ、あたしと視線をあわすとくるりと表情を変えた。まるで人形のようにかたまっていた顔に、ふうと命の灯が吹き込まれたように生き生きとした笑みが現れる。