愛のかたまり

「急に悪かったわねぇ、今晩はちゃんと行くわ」

 とろとろと心地よい眠りの中で低くあまい声が響く。

 ぼそぼそとひそめられて続く声は意識の上を滑り、かえってもう一度眠りに戻ることができない。

 薄く目を開けるとすでに見慣れた寝室の景色。

 青く沈む水槽の中に、一筋黄色い光が届いている。リビングに続くドアが少し開いていて、その透き間から海さんの声が漏れ聞こえていた。

「・・・・・・そう、仔猫はもう少し面倒みることに決めたわ」

 誰かと話しているようだが、相手の声は聞こえない。

 電話?

「・・・・・・ええ、今は眠ってる。かわいそうに、泣きつかれてしまって」

 もしかして、あたしのこと?

「・・・・・・ばかね、そんなんじゃないわよ」海さんはくすくす笑った。

 声が一転して明るくなる。「ええ!じゃまた後で。お疲れさまぁ」