耳のそばで、たぷん、と水音。
不思議な感触で包むようにあたしを迎え入れたそれには、水がつまっているものらしい。もう一度魚に戻って、意識が遠く薄れてゆきそうになる。
「おはよう仔猫ちゃん、目覚めはいかが?」
ハスキーな、低くあまい声に顔を上げると、いつの間に来たのかすぐそばで美しいひとが目を細めて笑いかけた。
反射的に身構える。
ちょっと戸惑ってしまうぐらいの彼女の美しさにまだ夢とうつつを判別できかね、勿論返事などできようはずもなく、ただ凝視した。
たぶん三十過ぎくらいだろう。濃い化粧と派手なスーツを身に纏っていて、水商売を連想させる。
ただ、その美しさにはどういうわけか温度がないように思え、生命体でないものな感じが頭の隅に引っかかった。
冷たい手が、思考をかき消すようにそっとあたしの前髪をかきあげる。
彼女の動作はまるで普段通りといった自然さで、一瞬、自分の方が記憶喪失かなにかのためにこの人のことを思い出せないのでは、と考えてしまうほどだ。
