「沙羅ね、こっちに引っ越して来てから成績が思うように伸びてなかったの。

模試の結果もあまり良くなくてね。

担任の先生に、志望校を変えた方がいいって言われたみたい。

だけど、どうしても歩夢くんと同じ所に行きたい、約束したからって、予備校に加えて家庭教師までつけて……」


そこまで言うと、沙羅の母親は、机の脇に立つ男の方へと目を向けた。


その時……やっと分かったんだ。



「まさか……」



「そう。

この人は沙羅の家庭教師の先生なの。

佐竹陽介さん」


それを合図に、ずっと黙っていた男が口を開く。



「はじめまして、佐竹です。

君のことは、沙羅ちゃんからよく聞いてるよ。

さっきは急に怒鳴ったりしてごめんね」


優しそうな表情で言う彼。




窓から入り込む月明かりが、薄暗い部屋をぼんやりと明るく照らしていた。