「なぁ、ヒナ。俺と勝負しようか」
奏多はニヤリと笑みを浮かべた。
「勝負?」
「そう。伴奏、どっちがするか」
どっちがって・・・。
「指揮も伴奏もなんて無理だろ。だいたい、楽譜読めるのか?」
「ヒナの影響でだいたい読めるんだよ。
もし、俺が勝ったら指揮者は夕凪がすることになってんだ」
得意気に言う奏多。
「本気であたしに敵うと思うのか?」
「3年もブランクがあるんだ。勝ち目はあるだろ」
わざとらしい挑発が妙におかしくて、久しぶりに自然に笑えた。
「俺、負ける気ないからな」
ありがとう、奏多。
いつも手を引いてくれて、背中を押してくれて。
あたしがこの勝負に勝ったら、ようやく伝えることができる。
もう大丈夫だって。
その時は迷わず呼べるよ。
昔のように“奏多”って。