だけど、引っかかる点はある。 雛月が名乗ろうとしないフルネーム。 その事情。 気にならないわけじゃない。 だけど、遠い記憶が引き止めてくる。 またあんな思いをするくらいなら、関わらない方がいい。 同じ失敗はしないと決めたんだ。 まだ間に合う。 まだ戻れる。 心に鍵をかけ直せば、きっと。 そんな考えが甘かったのかもしれない。 気がつけば俺は、強い追い風に押されて確実に元の道へ戻り始めていた。