好きだと思った。人懐こい笑顔が。垣之内さんが。


彼は黙ったまま、私の背をさすることも、抱きしめることもしなかった。


多分、予想だけれども、きっとさっきと同じ場所で、さっきと同じように困ったように笑っているのだろう。



ミーン、ミーン、ミーン――


――ああ、蝉、煩い。





どうすればいいのだろう。


気づいてしまった。自覚してしまった。


私にはできないのだ。




だって彼への気持ちを。



戻れない。もう。




だってきっとこれは、


紛れもなく。







――彼への恋心だ。