『名前…なんていうんですか?』
『あぁ…そういえば言ってなかったな…』
彼はギターを軽々と持ち上げ歩き出した。
私も彼を追うように歩き始めた。
『B組の結城慎二 (ゆうき しんじ)。君は?』
『A組の岡本真希 (おかもと まき)です。』
二人は歩きながら自己紹介をした。
教室へ戻るまでの途中、私は言いたい言葉を押し殺していた。
また会いたい。
話がしてみたい。
その素敵なギターの音色をもう一度、聞かせて欲しい。
言いたいけれど言えない自分がいた。
やがて教室の近くに辿り着いた。
『じゃあまた、岡本さん。』
彼は少し笑うと教室に入って行った。
私はろくに返事が出来ないまま、
心だけが立ち尽くしていた。
足は教室の中へと進んでいる。
『また』
と彼が言ってくれた。
自分に微笑みかけてくれた。
名前を知ることが出来た。
私はずっと右手に握りしめていたお弁当セットに目がいった。
食べる事にも忘れていた自分がいた。