(杏子のN)「死んでしまうと私の体も灰になってガンジス河の底
深く沈んでいくようです。白い衣に包まれた私のなきがらは少し
重たそうです。綺麗な花一杯に飾られて前を父が後ろを若林さんが

担いでいます。太くて重い私のなきがらにはなかなか火がつかずに
父は困っています。やっと火がつき母と三人で私が真っ白な灰に
なるまで祈り続けていてくれました。・・ありがとう、若林さん。

告白します。私の人生で心の底から好きだったのは、若林治さん、
あなたひとりでした・・・・・・」

荼毘の燃える音。
遠くに烏の声。
しばらくの静寂。

間近に小鳥のさえずり。
(若林のN)「すまなかった杏子。ほんとに鈍感ですまなかった。
・・・・・・・・最後の封筒には柴山清三郎と書いてあった」

封筒を開ける音。
(父のN)「若林治さん、杏子はもう字が書けなくなりました。
血液のガンと骨のガンとが体全体に転移して医師は一ヶ月と
宣告しましたが、若林さんの手紙を信じて三ヶ月生き通して

くれました。手紙を受け取った後、幸い脳と神経が先に侵されて
痛みはずいぶん和らいだようです。時々意識が戻るとまた手紙を

読んであげました。一週間後、最後に若林さんの名をかすかに叫
んで、娘は微笑みながら眠るように亡くなりました」