遠くで若林の声。
(若林)「ええ風呂やった」
(母)「そこへ早よ座りんさい」
(父)「さあ、乾杯じゃ」
(皆)「おかえり、かんぱーい!」

コップのあたる音。飲む音。
(皆)「ふう、頂きマース」
(若林)「やっぱり牡蠣フライは最高」
(母)「治ちゃんの大好物じゃろう?」

(父)「ほいでよのう。さっきの話。ドイツの
アウトバーンでひっくり返ってよう助かったのう」
(弟)「ほんまじゃあや。はあ、死ぬかと思うたろう?」

声次第に遠のいていく。
(父)「タイヤが取れた?ほりゃたまげたの」
皆の笑い声が遠くに聞こえる。

(若林のN)「お人よしの義父をはじめ、義理の弟も
皆、この3年間あまり変わっていないようだ」

遠くに声かすかに。
(若林)「ああ、右の後ろのタイヤが外れて」
(父)「よう助かったのう。あ、かあさん、灰皿」
(弟)「わし、ちょっとトイレ」
(父)「あ、わしもトイレ行って来るわ」

母の声が近づく。
(母)「治ちゃん。実はこんな手紙がきとったんよ。
連絡の仕様がなくて・・・・・・」

(若林)「70年の12月か。旅立った年の暮れ、
インドにいた頃だ。・・児玉?小学校の同級生の児玉から?
母さん、ちょっと海、見てくる」