足音がつづいている。
(児玉)「あ、この寺がそうじゃ」

砂利道の足音。
水道、手桶に水を入れる音。

(児玉)「宮本さん花もってえや。若林、この手桶、ほれ。
わしゃ線香に火点けるけえの。右の一番奥のとこらへんじゃ。
柴山て書いてあろう」

砂利の足音。手桶の音。
(若林)「あれ、この新しいの違うみたいや」
(児玉)「ああけむた。その新しいのんは去年亡くなった
お母さんのじゃろう。真ん中が杏子の墓。一番奥のんが
兄さんのじゃろうて」

(宮本)「そうよ。今はもうお父さん、お店を閉めて
お一人で暮らしておられるそうよ」
墓石に水をかける音。

(児玉)「さあ三人で祈ろうか」
(若林)「ああ」
(宮本)「ええ」

小鳥のさえずり。
静寂が続く。
砂利をふむ弱々しい足音が近づいてくる。
足音止まる。

(杏子の父)「こんにちわ」
(若林のN)「男の人の声に振り向いて驚いた。
そこには今にも倒れそうな白髪の老人が、重そう
な包みを持って立っていた」

(三人)「こんにちわ」
(杏子の父)「よく来てくれました。あなたが若林さん
でしょう?これを渡さないかんかったのです。娘の
形見ではありますが、この日記と手紙だけはあなたに
お渡します。どうか、受け取ってください」

包みを渡す音。
(若林)「え、あ、はい」