「ここはね、大人になれなかった子供達が来る場所なの。その子達を母親の代わりに大人になるまで育てるのが私の仕事。陽咲の生い立ちを聞いた事があるでしょ?陽咲がここへ来てから6年後のある日、亜夕ちゃんがいた世界に陽咲の弟が生まれたの。それを知った陽咲はどうしてもその弟の事を側で見守っていたいと私に頼んできた。でもそれは本来特別な人間にしか出来ない事なの。」

「特別な人間って…?」

「ここへ来るはずのない人間が時々迷い込んで来る事があるんだけど、その人達を元の世界に戻す役割を与えられた人間の事。もし迷い込んで来た人を元の世界に帰す事が出来なければ、その役割を果たせなかった人間は消えてなくなる…。だから私は陽咲を止めたわ。でも陽咲はどうしてもやると言ってきかなかった。そこで私は陽咲にその役割を与えたの。でもその時はこんな事になるなんて思ってもいなかった…。陽咲が弟の所に行くようになってから5年ほど過ぎた頃。私が陽咲の弟を見に行った時、陽咲の弟といつも遊んでいる女の子を見て気が付いたの。この子はいつか必ずここへ迷い込んで来ると。私はその事をすぐに陽咲に伝えた。その瞬間の陽咲の表情は絶望そのものを物語っていた。その時陽咲はすでにその子に心を奪われていたの。その女の子があなたよ。」

「えっ、私?てことは陽咲の弟って…。」

「あなたの友達の悠太君よ。」

こじれていた糸が綺麗にほどけた。
そうか、陽咲と雨音が親しみやすかったのは、二人の中に悠太がいたからだ。