そしてデーテの家の近くにある川原に差し掛かると…。

「なあ。」

「なに?」

「もう少し一緒にいよう。」

「えっ、別にいいけど…。」

そう言うと雨音は川原の土手に腰掛けた。
周りを見渡すと、見事に美しい桜並木だ。

「桜ってさぁ、ずるいと思わない?」

「えっ、そうかな?私は今まで桜を見ても儚く惨めだとしか思わなかったけど、ここに来てからは少しづつだけど素直に綺麗な物を綺麗だと思えるようになってきたよ。」

「そっかぁ。もう時期決断の日が来るようだな…。」

「えっ?」

「なんでもない。桜ってさ、人が見飽きる前の一番美しい時に散ってしまうから、だからこそこんなに美しい物だと俺は思う。毎日咲いていたらこんなにチヤホヤされてないだろ?その辺の野花が咲いたからってみんな花見なんかしないしね。そう思うとさ、人間ってのは一番身近な物の美しさ、大切さに気付く事が出来ない愚かな生き物だよな。昨日までそこにあった物が今日なくなっていたとしたら、その時初めてその物の大切さに気が付く。ほんと、バカだよな、人間は。」

「私は今まで一度だって誰かに大切にされた事なんかない。」

「そんな事言ったら悠太が泣くぞ。」

「えっ、ちょっと待って、どうして悠太を知ってるの?」

「ん?さあね。」