「秋の海ってなんでこんなに切ないのかわかる?」

「えっ、わからない。」

「泡沫の夏を名残惜しく思うからだよ。みんな太陽の陽射しが好きだからね。でも私は雨が降ると安心する。穏やかすぎると寒気がするだろ。そう思わない?」

「…陽咲はいつこの街に来たの?」

「私はこの街で生まれたんだよ。この街で生まれて、デーテに育てられた。そしてある条件の下、亜夕がここに来る前までいた世界に自由に行けるようにしてもらった。」

「ある条件って?」

「それはまだ言えない。」

「ふーん…。私がいた世界にはなにしに行くの?」

「私の弟がいるんだ。雨音と私の弟がね。弟は私達の存在は知らないけど、見届けたいんだ。彼が大人になるのを。」

「そうなんだ…。」

不思議なくらい陽咲が遠く感じた。
今隣にいる陽咲がほんとは幻のような気がして、私は思わず陽咲の手を強く握る。

「陽咲、陽咲はここにいるよね?私から離れて行かないよね?」

「…。私は亜夕だけを見ているよ。今までも、これからも。」