本当は進路なんて少しも考えてなかった。
ただ聞かれたからなんとなく応えただけだった。
でも一つだけ譲れない事はある。
それは、卒業と同時にこの家を出る事。
けど、それを母が許すはずがない事も知っていた。

「東京…?いいわけないでしょ…。いいわけないじゃない…。亜夕ちゃん…あなたまでママを一人にするなんて…いいわけないでしょっ!!」

母は典型的なヒステリーだ。
思い通りにいかないと突然大声で怒鳴り散らす。

「だいたい亜夕ちゃんが行ける大学なんてあるわけないじゃない。昔から頭も悪いし集中力の欠片もないから勉強だって続かないくせに。なにが大学よ。」

そう言うと母は私がまだ食べてる途中のチーズケーキを台所に持って行ったかと思うと、そのままゴミ箱に捨てた。
そしてそのまま勢い良く家を飛び出した。

「ふう…。」

私もその後すぐに家を出た。
母を追うわけでもなく、さっきまで寝そべっていた川原に戻り、ポケットから取り出したタバコに火を付ける。
タバコを初めて吸ったのは中学の時。
別に興味があったわけではない。
きっかけは、なんの根拠もなく突然母がこう言ってきた事。
「あんた親の脛かじりの分際でタバコなんか吸ったら許さないからね。」