「亜夕ちゃん…。今日ね、パパ急に仕事が入って帰って来られないって…。」

「そっか。残念だね。」

「そっかって…。他人事みたいな言い方して…。だいたいね、あの時…パパが転勤になった時、亜夕ちゃんが悠太君と一緒の幼稚園に行きたいなんて言わなければパパが私を置いて転勤する事もなかったのに…。いつもそう…。パパは私より亜夕ちゃんの事ばっかりで…。あんたのせいでめちゃくちゃよ。どうしてくれるの?」

「…。」

「絶対女よ。向こうで女でも出来たのよ。そうに決まってる。」

「そんな事あるわけない!」

「うるさい!あんたになにがわかるのよ!いつもいつもママの邪魔ばっかりして…。全部あんたのせいよ!あんたなんか産まなきゃ良かった!顔も見たくない!」

その瞬間、私の中で何かがプツンと音を立てて弾けた。

「ふふっ…。」

「なにがおかしいのよ?」

「ママ、私も今すごく後悔してる。ママのお腹から産まれてきた事に。」

私はいつものように笑顔を作る。
けれど、必死で見開いた目から、滝のように涙が溢れ出す。

「亜夕ちゃん、どうしてそんな事…」

「私、ママが望んでもいないのに生まれてきて、図々しいよね。恥かしいよね。ごめんね、ママ。」

そう言って私は家を出た。