それから悠太は私を避けるようになった。
今までは行動範囲が一緒だから偶然一緒になっては同じ時間を過ごしていたのに、その偶然が偶然ではなかったのではないかと思うほど顔を合わせる事がなくなった。

夕凪の切ない空気の事なんて、私に知るはずのない事。
それなのに、私はいつからか求めてた。
海風と陸風が混ざり合った瞬間の、無風状態を。
私は気が付かなかったの。
気が付く事が出来なかったの。
悠太がいる事があまりにも自然で、当たり前過ぎたから。
ねえ悠太、悠太があんな嘘をついたせいで、私の日常から風が消えてしまったよ。

悠太が私を避けるようになってから2週間ほど経ち、今日は父が帰省する日だ。
夕方、私は学校が終わるとまっすぐ家に帰った。

「ただいま。」

返事はない。
浮かれているはずの母が機嫌が悪いとすると、嫌な予感がする。
居間に入るとその予感が的中している事を知った。
今朝まで一緒に片付けて綺麗だった部屋が、まるで豚小屋のように散らかり、物が散乱していた。
そしてその中心に母は座り込んでいた。

「どうしたの?」

そう尋ねると、母は鬼のような形相で私を睨みつける。