今さら1本しか持ってないなんて言えなかった。

土砂降りの外を見てため息をついた。

すると前から誰かが走ってきた。

「喜瀬さん?!」

目の前にいたのは喜瀬さんだった。

「傘1本しかないんでしょ?」

喜瀬さんの笑顔はとても優しかった。

「じゃあ私行くね!」

俺に傘を渡し、走り出そうとする喜瀬さんの手を無意識に掴んだ。

「濡れると悪いから一緒に帰る」

俺は自然とこの言葉が出てきた。

「あ、うん…あの……多軌君………?」

「何?」

「そのっ…手を……」

「あ、ごめん。つい…」

何故だろう。

喜瀬さんの手を離すとき思った。

名残惜しいと感じたのは気のせい立ったのか。