突然視界は遮られた。
佳織さんの微笑んだ顔が広がっている。
「やっぱり」
短く佳織さんは言うと、赤い縁の眼鏡の同僚に、あたしの恋人です、と紹介した。
突然のことで顔が紅潮してくるのがわかる。幼少の日になにかの弾みに女性の裸を見たときのような、一気にくる恥ずかしさだ。
赤縁眼鏡は佳織さんに、なにか囁くと先に歩いて行った。
「今日は取材でこっちのカフェに行ってたんだ」
彼女は雑誌の編集をしている。
「というか、偶然会うの久しぶりだよね」
「もしかして、初めてかしら」
「そうかも」
ふたりで駅へ歩みを進める。いつものように佳織さんは腕を絡めてくる。六郎は昨日のことが気になってしょうがなかった。佳織さんは楽しそうである。
「なんか凄く悪いことしてるみたい」
「どうして」
「仕事中に男と歩くって完全に不良社員よ。でも駅までね。まだ山のように仕事があるの」
彼女はとても楽しそうに語った。