シャクジの森で〜番外編〜

「・・・王子妃様!」

「サリーさん!」


叫びながら姿を現したサリーを見て、エミリーはソファから立ち上がった。

くしゃりと顔を歪め、華奢な身体をぎゅうぅっと抱きしめたサリーの涙声が聞こえてくる。


「王子妃様・・・良かった、無事で・・ホントに良かった」

「サリーさん、心配かけてごめんなさい」

「違うんだ、王子妃様、私のせいなんだ。私の・・・ごめん・・・ごめんよ・・・怖かっただろ?・・・助けに行けなくて、本当にごめん・・・」

「どうして謝るの??サリーさんのせいじゃないわ。わたしがのんびりしていたのがいけないの。あの男の方が近付いてきたとき、逃げれば良かったの・・・おねがいだから、もう泣かないで」


エミリーがそう申すと、王子妃様・・と呟き、ますます泣き方が酷くなっていく。

何を申しても肩を震わし止む様子のないため、助けを求めるようにアメジストの瞳がこちらを見た。


「サリーさん、ホントにもう平気なの・・・ね、アラン様―――?」

「・・・サリーのせいではない。気にせず泣きやむが良い。エミリーが困っておる」

「王子妃様・・・アラン王子・・ありがとう」


嗚咽しながらも礼を申しエミリーから腕を離したサリー。

青い瞳からは雫が流れ、まだ止まる様子がない。



「・・・確か、泣いておる女性は慰めねばならぬのであったな。私には出来ぬゆえ。・・・パトリック」


ボードの向こうに声をかけるとパトリックが顔を出した。

状況がつかめぬものの、泣いているサリーを目にとめると、すぐさまポケットからハンカチを取り出した。

慣れた手つきで濡れた頬をそっと拭う。

あまりにも優雅で自然な動作に、一歩も動くことも声を発することも出来ず、呆然と見つめるサリー。

青い瞳を見つめ返すパトリックの瞳がふ・・と優しく緩み、柔らかな微笑みを浮かべる。


「君は、優しいんだね」


パトリックの手が肩に伸びて来るのが目に入り、身体を包み込もうとしているのに気付きギョッとしたサリーは、優しい腕を捉えてぐいっと押しかえした。


「ちょ・・・ちょっと待ってよ!もう泣いてないよっ。ほら―――」


瞳に残る水分を手で拭い、泣いてないことを懸命にアピールした。

行き場をなくし腕を下ろしたパトリックを見て、サリーは息を大きく吐いて自分の胸を強く抑えた。

頬は赤く染まり、ひどく狼狽しているのが見てとれる。


ハンカチを仕舞い肩をすくめたパトリックは、サリーを見ながらにこりと微笑んだ。


「―――それは、残念」


「ざ、残念って・・・何言ってんだいっ・・・純情な女をからかうんじゃないよ」


まったく、これだからいい男は、と呟きながらエミリーの後ろに隠れた。

そんなサリーを見てエミリーが声を立てて笑う。


空気が、和んでいく。