シャクジの森で〜番外編〜

パトリックが親指をくいっと後ろに引き、ここから離れるように合図する。

エミリーが目覚めた時のことを考えてのことだろう。

聞かれたくない話、か。



入口近くまで移動し、神妙な顔付きのパトリックを見つつ声を潜めた。


「何だ」

「確認したいことがある」

「・・・申してみよ」

「―――さっき言ってたこと、実行するつもりか?」


「パトリック、もしや、アレが聞こえたのか?」

「あぁ、いや、聞こえてはいない。長年の付き合いだ。君の考えること、行動、大体のことはわかる。見当違いでなければ・・・」


「・・・無論、彼女の身体に傷があれば、迷うことなく致す。頬に涙の痕跡ひとつ見つけたとしても、あの時の私は実行の命を下していた。すでに心の内にあるタガが外れ、理性が飛んでいたゆえ・・・。もし、あの時犯人が彼女に傷を負わせていたら、あの場で何をしていたか分からぬ・・・」



あの姿を思い出すだけで心の中にふつふつと怒りが込み上げる。

アレを実行するつもりは毛頭ないが、しそうになる自分もいる。

銀の龍が再び顔を覗かせ、刃のような眼光を放ちパトリックを見据えた。

昂る感情と闘うアランを、パトリックの瞳が抑え込む。



「いいか、アラン、済んだことだ。落ち着け」


「――――この先、もしも似たようなことが起こり彼女に害なす者があれば、私は王子であることを忘れる。きっと、自分では抑えきれぬだろう。・・・そうなったら、パトリック、君が、止めろ」


「私が、か?・・・しかしそういう時は、私も理性が飛んでるかもしれんぞ。それも、君以上に―――何故かは、分かるはずだ」


「あぁ・・・だが、私を止められる知恵と体力を持っておるのは、国中探しても、君しかおらぬ。・・・良いな」


「全く、冗談だろう。全力の氷の王子は私でも止められん。この先、理性を失う事なきよう願うよ」


「・・・努力する」


踵を返してエミリーの傍に戻っていく背中を見つめ呟いた。


「努力、か・・・。その言葉、よく覚えておくよ」



パトリックはため息を一つ吐き、瞳を伏せた。






『・・・・・!!』


『・・・っ・・・・!』


『・・・・・!?』




―――・・・?何だ・・・外が騒がしいな。


ふと外が騒がしいことに気付き目を向けると、市場警備と若く綺麗な女性が争っている様子が目に入った。


女性は自分よりも背が高く体格のいい警備を恐れもせずに掴みかかっている。

・・・結構気の強い女性だな・・・一体何をしているんだ?


パトリックは興味を引かれ、扉を開けた。

よく通る声と警備の野太い声が店の中に流れ込んでくる。


――――っと・・・・。


奥をチラッと見やったあと、急いで外に出て扉を静かに閉めた。