シャクジの森で〜番外編〜

日の落ちた西通りに冷たい秋風が吹き、艶やかなブロンドの髪をふわふわと揺らす。


―――このままでは冷えてしまうな・・・。

早く目覚めると良いのだが。

このまま帰城すると良いが、エミリーの目的を果たしておらぬ。

どうしたものか―――


風から庇うように背を向け、冷たくなってきた頬をアランの大きな掌が温める。


「エミリー、すまぬ・・・寒いな・・・」




まだ目覚める様子のないエミリーに声をかけ、慈しむように頬や髪を撫でる様子を複雑な想いで見つめるグリーンの瞳。

ハッと思い付いたように少し見開き、上着を脱ごうと手をかけたところを、横から延びてきた手にやんわりと制された。

差し出された手の主を見やると、無言で首を振るパトリックが隣に立っていて、既に上着を脱いでいた。



「アラン、いいか?これを―――」



冷たい秋風に晒される身体に、パトリックの上着がふわりと掛けられる。


手が肌に触れそうになる刹那にピタと止め、眉を寄せ唇を引き結んだ腕の主は、上着をぐっと握り締めたあと柔らかな肌に触れることなくゆっくりと手を離した。


パトリックのブルーの瞳が切なげに揺れ、無言のまま、ただただアランの腕の中を見つめ続ける。

心の奥底に封じ込めていた想い。

命が危険に晒され、柔らかな肌がナイフと汚れた手に嬲られるのを見た時、ガラスのケースに閉じ込めていたそれが、音を立てて壊れ溢れ出た。




彼女を守りたい

他の誰の手でもなく、私のこの手で

犯人から救い出し、柔らかな髪を撫で頬を掌で包み

もう大丈夫だと、怖いことはもう去ったと

私が一生をかけて君を守るから

そう囁きながらこの腕で強く抱きしめたい


強く、そう思ってしまった。



・・・未練、だな・・・。



思いきるにはまだ時間が必要のようだ。

さて、いつまでかかることか―――


パトリックは自嘲気味に唇を歪めた。




ふと誰かの手に肩を2回叩かれた。

振り向くとレオナルドがそこにいて、無言のまま長い指が空を差した。

導かれるままに見上げると、二つの月が目に入る。

互いに遠く離れ、それぞれが光りを地上に降り注いでいる。

シェラザードの出す柔らかな光とリンク王の強い光。

あとひと月もすれば二つは重なり合い、二人は束の間の会瀬を楽しむ。



―――リンク王、あなたが羨ましい。

例え一時であっても愛を紡ぎあえるのだから。


いつか・・・いつの日か

私にも、彼女以上に愛せる女性が現れるのだろうか―――