シャクジの森で〜番外編〜

「レオ様、またそのようなことを―――・・・アラン王子様、誠に申し訳ございません」


「いや、良い・・・」



ひっ・・と小さな声を出し、たしなめる声をあげて深々と頭を下げる爺を手で制し、アランは真意を確かめるようにレオナルドの瞳を見た。


いつも快活で、何処に行っても人に囲まれて笑いが絶えず、悩みや苦しみとは無縁に思えるレオナルド。

そのグリーンの瞳は淀みなく、真摯にアランを見ていた。

ふざけや軽口ではない強い想いが感じられる。

ルーベンの王子ではなく、一人の男の顔。

自分と、同じ想い―――



アランは瞳から鋭い光を消し、腕の中に視線を戻し暫く見つめたあと「・・・知っておる」とだけ呟いた。


レオナルドも「そうか・・・」と一言だけ返し、鍛えられた腕の中に収まったエミリーを見つめた。


目の前で鋭利なナイフがちらつき口を塞がれ声も出すことが出来ず、いつ殺されるとも分からぬ状況の中かなりの恐怖であったはずなのに、寝顔にはそれから来る歪みが全くない。

唇は微かに弧を描き微笑んでいるようにもみえる。

青ざめてはいるが安らかで何の恐れもなくすやすやと眠っているその様子は、まるで何事もなかったかのように、普段通りの心地よい夢を見ているようにしか見えない。




―――・・・なんて可愛い寝顔なんだ。

しかしこれは・・・ひょっとして、気を失う寸前に笑ったのか?

・・・まさか、な。

全く・・・そんなこと、考えたくもない―――



首を振りながら目を逸らす。

ここに来て再確認した、焦がれる想い。


あの時、彼女の危機を知り喫茶から飛び出し見たものは、犯人に拘束された姿。

その前にアランとウィリアム長官が話をしているのがぼんやり見えたが、グリーンの瞳がはっきり映し取ったのは、ナイフで脅され怯え震えるエミリーだけ。

ルーベンの王子として、アランの友人として、無意識に抑えていた感情が心の奥底から漏れ出て全身を駆け巡る。

制御しきれない想いに耐えるように拳を握りしめた。

アランにばれないようにと忍んで来ていたのに、体が勝手に動き、気付けば自然に名を呼んでいた。



「アラン、私も協力しよう」



―――・・・

レオナルドは犯人の身柄を受け取りに来たウォルターに「御苦労様」と労いの言葉をかけ、夕暮れの空を仰ぎ見た。

紫に染まった空に二つの月が浮かび、星がちらほら瞬きはじめている。

シェラザードを追いかけるリンク王の月。

二つは今夜も遠く離れたまま。



―――分かっている・・・分かってはいるが、辛いものだな。

・・・手に入れるには・・・近付くには・・・まだまだ、遠い―――


レオナルドはため息をひとつ吐き、瞳を閉じた。