シャクジの森で〜番外編〜

「―――っと・・・この状態じゃ動くことも叶わんか。ひょっとして、私はいらなかったんじゃないのか?」


店の屋根を伝いながら様子を窺いつつ成り行きを見守り、ここぞとばかりに飛び降り捕まえた青年は、途端に緊張の糸が切れたようにふらふらとよろめく犯人の体をがっしりと支えた。



「そんなことはない。身軽な君ゆえ頼めることだ」


「しかし、武器を使わずに仕留めるとは。君は恐ろしい男だよ。全く・・・何を言っていたのか想像するだけでも恐ろしいよ。彼女が気を失っていて良かった―――――っと・・・」



犯人の腕の中からふわりと零れ落ちていくのを、そっと受け取るアラン。

しっかりと抱き寄せつつ、咄嗟に差し出された腕の主を睨んだ。

その瞳には、さっきまで放っていた殺気が乗せられ、少しでも触れようものなら一撃必殺の拳が容赦なく繰り出されそうだ。

それはいくら身軽な自分でも避けられそうにないことを、青年は良く分かっていた。



「・・・っ・・分かってるよ」



と呟いたその瞬間、息を飲み、静かに成り行きを見つめていた野次馬達から拍手が一斉に沸き起こった。


「凄いなアンタ」

「身軽だなぁ」

「私ずっと見てたわ。貴方、素敵な人ね」



方々から賛辞の声が掛けられる。

声援に答え、青年はにこにこと愛想よく手を振る。

空のアトリエから青年と一緒にいた老紳士が出てきて、涙ぐみながら声をかけた。



「レオ様、お疲れ様で御座いました。爺は見ておりました。アラン王子のお役に立ちエミリーさまをお救いするなど誠に御立派です。これであとは、お妃様さえ見られれば・・・爺は、思い残すことは、もう何も御座いません」

「爺・・・こんなことで泣くな。調子が狂うだろう」


よよと泣き崩れる爺を見つめ、レオは困ったように頭を掻いた。






―――良かった、怪我は無いようだな・・。

青ざめてはいるが涙の痕もない。


エミリーを取り戻し安堵の息を漏らしながら頬にかかる髪を指で避け、額にそっと口づける。

ついさっきまで纏っていた殺気は消え去り、同じ人物とは思えないほどの柔らかな表情が腕の中を見つめた。



「レオ、御苦労だった」


「いや、良いんだ。知らんだろうが、私は彼女の為なら何でもするよ」