シャクジの森で〜番外編〜

一歩一歩近づくにつれアランの殺気が濃くなっていく。


深いブルーの瞳は真っ直ぐに犯人の瞳を捕える。

まるで研ぎ澄まされた無数の刃を全身隈なく突き立てられたような圧倒的な恐怖。

冷や汗が吹き出し身動きもできず、立っていられないほどの圧迫感が犯人を襲う。

脚が震えナイフを持つ手が震える。

ふらつきながらもエミリーをがっちりと引き寄せ、なんとか後退りをする。

人質を失えば、目の前に迫ってくるあの恐ろしい男に瞬殺されてしまうのは日を見るより明らかだ。

喉がからからに乾き舌が上顎に張り付いたようで全く動かない。



―――くっ・・・私とて、サディルの元騎士団A長だ。

これくらいの殺気など、撥ねつけてみせる―――



遥か遠くに追いやっていた闘争心を引張り出し、なんとか持ちこたえ声を絞り出す。



「・・な、何だ、お前は・・・こっちに来るな!」


「私は何も武器を持っておらぬ。その腕の中の者、こちらに返して貰おうか」


「この女か・・・余程大事らしいな?誰も近付かん・・・っと、駄目だ。それ以上動くな・・・これは脅しじゃない!本当に刺すぞ!?」



冷や汗をかきながらもアランを睨みつけながら後退り、ナイフを首筋に向けちらつかせる。




「本気か。私の大切な者だ。傷を付けたらどうなるかわからぬのか」


「何言っている。普通大切なら、私から離れるだろう。あいつらのように。さぁ―――」



ぐっと握りしめたナイフをヒラヒラと動かす犯人。

夕日に照らされ、よく磨かれた刀身がオレンジ色光る。


意識を失いぐったりと項垂れた首筋に、何度も刃先が当たりそうになる。


犯人が動くたびにブロンドの髪がふわりと揺れ、青ざめた綺麗な肌が犯人の手で嬲られる。



アランの中で懸命に保っていた一線。

自分でもいつ切れるとも分からぬ程に、ピンと張りつめていたそれ。

王子として、エミリーの夫として、切れぬように超えぬようにと意識していたもの。

それが、今、プツリと切れた。

心の奥底に潜ませていた冷酷非情な銀の龍が顔を出し、暴れ出す。



「・・・今のうちにその汚れた手を離せ。小さな傷一つでもその肌につければ君はこの先生きていることを後悔することになる。耐えられず、いっそのこと殺してくれ、と懇願するだろう。だが私は決してそれを止めぬ・・・勝手に命を絶つことも許さぬ・・・」


「―――っ・・・何を・・一体何を言ってるんだ・・・?」