シャクジの森で〜番外編〜

「――――っ、アラ・・むがっ・・」


「静かに。今は忍びゆえ」


サリーの口を、素早くがしっと覆い、人差し指を青い瞳の前に立てた。

コクコクと首を縦に振るサリー。


エミリーが横でツンツンと服を引っ張った。

唇を尖らせ、窘めるような色を宿したアメジストの瞳が見上げている。


「ダメです・・・離してあげてください」



「―――ぷはっ・・・忍びって、何でまた、一体・・・」



サリーの瞳が、アランの横に寄りそうエミリーの姿を捕えると、ふわりとした優しい笑顔が零れた。


「あらぁ、もしかして、この方は貴方様の?」

「そうだ。スミフに会いに参った。今、奥におるか?」

「えぇ、もちろんいるわ。・・・スミフ!」


『なんだぁ?』


サリーが奥に向かって声をかけると、ぶっきらぼうな声が返ってきた。

嬉しそうに呼びかけるサリーと正反対な反応。


「こっちに来てよ。珍しいお客さまよ!」


『今手が離せないんだ、帰って貰え』


「はぁ?何言ってんのさ、この頑固爺―――」


今にも奥に走り込んでいきそうなサリーの肩をぐいっと掴み、留まらせる。


「待て、良い。サリー、勝手に奥に入らせてもらうぞ。エミリーこちらへ」




店の奥の狭い廊下を進んでいくと、ガリガリと木を削るような音が聞こえてくる。

スミフが仕事をしている音だ。



「誰だ・・・帰れって言ったはずだが」


スミフはこちらを振り向きもせずに、ぶっきらぼうに言い放つ。

ガリガリと削られた木の屑が、はらはらと絶え間なく床に落ちる。

壁には仕上げ前のヴァイオリンが5つほど吊るされている。




一旦仕事に入ると手が止まらぬか。頑固なところは昔と変わらぬな。



「・・・スミフ」


「―――っ!貴方様はまさか・・・」



スミフの手がぴたと止まり、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。

顔に深く刻まれた皺をさらに増やし、くしゃりと笑う。



「王子様・・・まさか、こちらにおいで頂けるとは・・・。随分お久しゅうございます。この方は―――奥方様ですね?」