シャクジの森で〜番外編〜

退室の挨拶をし、帰宅の前に長官室に寄る。

外は既に夜の闇に染まり、月が輝いていた。

昨日よりも明るく思えるのは、私の心がそう見せるのかもしれない。


引き出しに忍ばせて置いた、ある物を取り出し、ポケットに入れる。

長官室の鍵を閉めていると、ウォルターから声がかかった。



「今夜はもうお帰りですか?」

「あぁ、用事が出来たんだ。その書類は、すまないが明日に処理するよ」

「分かりました、置いておきます。パトリック様―――おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」



背後からかかる声に、ひらひらと手を振って挨拶に変える。

すれ違う高官や兵にも軽く手を上げて見せ、馬車に向かう。




「―――出してくれ」



乗り込んで命じれば、少しばかり緊張してきた。

こんな気分になるのは、久々だ。



流れる景色が移ろいで行き、目的の場所が近付いてくる。

ポケットの中にあるのは、シンディへの贈り物を購入した際に、衝動買いしたもの。


機会がなく、渡せずにそのまま仕舞ってあったものだ。

受け取ってくれるとは、とても思えないが。




ゆるり・・と停まった馬車を降りる。

目の前には、周りにないファンシーな色どりの店がある。

もう閉まってるようだが・・・。


迷いつつも取っ手を握れば予想に反し、すんなりと扉が開いた。


カランコロン・・


ベルの音が鳴り、暫くすると明るい声が聞こえてきた。



「いらっしゃ~い。あー・・だけど惜しいねぇ、もう今日は仕舞いなんだよ。また来てくれるか―――・・・あ・・アンタ・・・あぁ、そうか。ケーキを買いに来たのかい?」



驚いて絶句した顔を元の笑顔に戻した君に、首を横に振って見せる。



「サリーと、もっと話がしたいと思って来たんだ。それから、これを―――渡そうと。受け取ってくれるかい?」



まずは、あの日に借りた花柄のハンカチを差し出す。

と、ホッとしたような笑顔を見せ、別に返してくれなくても良かったのに、と言いながらも素直に受け取ってくれた。

さて、問題は、もう一つの方だ。



正直なところ、私も分かり兼ねている。

何しろ、今までのタイプとは違いすぎるのだ。

目を閉じれば、君の声と姿が容易に思い浮かぶ。

それを、自覚した時。

この気持ちが本物かどうか、しっかりと確かめてみたいと思った。


彼女の気持ちも―――


「サリー、これも、受け取ってくれないか」



私の新しい恋は、まだ、種が撒かれたばかりだ。

急がなくてもいい、待とうと思う。

この先に、ゆっくりと、芽吹くのを。

いつか、花が咲く日を願って・・・。



fin